「和歌山の文化財を守る展」へ行ってきた!

9月1日から和歌山県立博物館にて開催されている「和歌山の文化財を守る―仏像盗難防止対策と近年の文化財修理―」展(以下、「和歌山の文化財を守る」展と表記)は、おそらく日本初の「仏像盗難防止啓発」展覧会でしょう。

文化庁の平成29年度末(平成30年6月7日発表)状況データによると、国内の所在不明の国指定文化財は161件。

全国各地で所在がわからない文化財がある今だからこそ、その最先端をゆく展覧会へ足を運びました。

 

▼「和歌山の文化財を守る」公式HPはこちら!

 

「和歌山の文化財を守る」展の特徴

「和歌山の文化財を守る」展は、新たな被害を防ぐために、盗難被害に遭いながらも奇跡的に取り戻された文化財を展示して、和歌山県内で発生している仏像盗難の実態を訴えています。

また和歌山工業高等学校、和歌山大学と連携して3Dプリンターで製作している「お身代わり仏像」を盗難対策の事例として紹介しています。


そして「和歌山の文化財を守る」展の大きな特徴は、展示室内で写真撮影ができます。

観覧者自らにSNSなどネットを通じた防犯の重要性を呼びかけをしてもらい、仏像盗難への意識を高める仕掛けです。

 

仏像のこれからを考える上で大切な展示であり、その第一線でご活躍されている学芸員の大河内さんのミュージアムトークに参加してきました。

大河内学芸員のお話をもとに本展覧会からわかる和歌山で発生している仏像盗難の実態をご紹介します。

 

和歌山県内での仏像盗難被害

2018年3月に盗難に遭ったお堂の様子。

「まるで剥ぎ取るように、引きずり出した形跡がありました」と大河内学芸員。

 

その後、メディア、警察に協力をしてもらい捜索したところ、奇跡的に同年6月に取り戻されたとのこと。

実はこのような盗難被害は今に始まったことではありません。

今から8年前、2010年春頃から翌年の4月にかけて和歌山県内では60件、仏像172体をはじめとする文化財の盗難事件が連続発生しました。

 

 なぜ所蔵者不明の文化財があるのか?

「和歌山の文化財を守る」展では、仏像盗難の後、奇跡的に取り戻す事が出来ても持ち主が出てこない、所蔵者不明の文化財の展示もされています。

平成23年の4月に起こった盗難では、80ヶ所以上が被害に遭い、43点が所蔵者不明のまま県立博物館にて寄託されています。

1つでも多く所蔵者の元に戻ることを願ってキャプションを通して呼びかけがされています。

 

所蔵者不明になる理由は大きく2つ。

  1. 所蔵者が盗難に遭っていることに気がついていない。
  2. 自分の仏さんなのかわからない。

「自分たちの村の仏さんなのに、わからないとはどういうこと?」

実はお堂を開扉する機会がほとんどなく、どんな大きさで、どんな姿の仏さんが自分の村にいるのか、知らないことが多いのです。

長浜市内の世話方さんも、世話方当番に当たるまで自分の村の観音さんの姿を見たことがなかったという方も少なくありません。

年に一度の煤払いや法要で開扉する程度であれば、まじまじと村の仏さんの姿を見ることはありません。

 

そして残念なことに、たとえ所蔵者の目で見てわかったとしても、それを説明できる証拠資料がなければ、村の仏さんを取り戻すことができません。

そこで重要になるのが、仏像の写真を撮影すること、仏像の寸法を記録しておくことです。

このような撮影、記録を村の中で行うことで村人同士が村の仏さんへの意識を高めることになります。

地味な作業ですが、とても大切なきっかけとなる作業です。

 

仏像盗難はなぜ起こる?

1. 犯人は空き巣に近い?!

では、180cm以上ある大きな仏像を盗る人はどんな人物なのでしょうか?

いいえ、この仏像を盗った犯人はなんと83歳の男性。しかも1人で。

「犯人に先入観を持たないでください。」

大河内学芸員は仏像盗難の現状についてお話しくださいました。

 

対馬で起こった外国人による仏像盗難事件。

メディアでも大きく取り上げられていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200227-00000009-pseven-soci

 

ですが、「国内で起こっている盗難は、全て外国人によるものである」というわけではありません。

少なくとも和歌山県内で起こっている盗難の犯人は日本人で、空き巣に近い人とのこと。

 

犯人が古物商に売り、買い取った古物商が別の人に売る、というような転売を繰り返していくうちに仏像は高額になっていきます。

一番初めに犯人が売った時は高額で買い取られていないので、また犯行を繰り返してしまうという悪循環が起こってしまい、盗難被害がさらに増えてしまっています。

 

「価値ある仏像だから、盗むのではなく、手当たり次第犯行に及んでいます。だから犯人はどこで何を盗んだか覚えていないのです」。

 

2. 被害背景に潜む地域の課題

和歌山県内では盗難被害が多発していますが、そのほとんどは住職がいない無住のお寺やお堂、それも山間部の村のお堂が狙われています。

その背景には村の高齢化、過疎化があり、それまで当たり前にできていた管理体制が崩壊して、村人の目が届かないという状況になっています。

身動きが取れないほど、高齢化、過疎化が進んでしまったら対策の施しようがないでしょう。

だから「高齢化、過疎化はまだ大丈夫だから」と胡座をかくのではなく、これから起こりうることに対して長期的で、多世代が関わり、守り方を考えていく必要があるかと思います。

これは仏像や文化財だけの話ではなく、地域のこれからを考える地域づくりの観点をもって進めることが大切だと思います。

「お身代わり仏像」が果たす役割

防犯対策として3Dプリンターによって複製された「お身代わり仏像」は和歌山県立和歌山工業高等学校・和歌山大学と連携して製作されています。

この取り組みは「このままお堂に安置しておくのは怖い」という村の声に応えて、「お身代わり仏像」を新たにお堂に安置して、本物の仏像を博物館に寄託するというものです。

 

「それは仏像の本来あるべき姿を剥奪しているのでは?」

「その地域になくてはならない存在を動かすのは…」

そんな意見も多いのではないでしょうか。

 

しかし一番若い人は70歳という村で「お身代わり仏像」を安置すると「やっと、安心して寝れる」とおっしゃったとのこと。

また村の方々の元へ、学生さんがお納めに伺うと

「もとの仏さんのように大事にするわ。」

「うちの村のために作ってくれたんか?ありがとう。」

そう零されるそうです。

 

「製作者が高校生、大学生なので、あの子が納めてくれた仏さんという思いが村の方々にも強く残ります。学生たちも人の役に立てているんだ、こんな状況のむらがあるんだ、と感じるきっかけになっています。」
と大河内学芸員。

 

3Dプリンターで製作した「お身代わり仏像」が新たに安置され、村では「ここから新たな歴史」が始まります。

そしてそれまでの歴史を語り継いでくれた仏像は博物館で、その歴史を語る。

歴史文化を本当の意味で伝えていくためなら、これまでの歴史を受け止め、そしてこれからを作っていくことも大切だと思います。

 

 最後に、仏像を守るために

このような仏像盗難事件は決して他人事ではありません。

全国各地で起こっていますし、滋賀県内でも起こっています。

 

「売買方法の多様化+管理体制の脆弱化=盗難増加」

という負の連鎖が起こっています。

今は古美術商に行かなくても、ネットオークションで、仏像を簡単に売買することができます。

その中にはどこかのお堂から剥ぎ取ってきた仏像かもしれません。

今、できることは、村人同士が仏さんの今後について話し合う機会を作り、意識を高めることから始めることが大切なのではないでしょうか。

 

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企画展「和歌山の文化財を守る―仏像盗難防止対策と近年の文化財修理―」
平成30年(2018)9月1日(土)~10月4日(木)

 

▼「仏像を盗難から守るために」ポケットブック、ダウンロードはこちらから!
https://www.hakubutu.wakayama-c.ed.jp/wakayama-bunkazai-mamoru/pocketbook-a3.pdf

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※「和歌山の文化財を守る」展の資料とミュージアムトークにて、大河内学芸員からお聞きした内容を元に記事を作成しております。

ここで紹介した盗難事例については和歌山県内で発生した事例です。

文化財の盗難事件は決して和歌山県内だけで起こっているものではありません。

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